夢日記



   夢日記



   1995年



   1, 2

郵便窓口に背を向けて立ち、ミステリを読む。描写が素晴らしい。作中の薄暗い日本家屋の裏口が同時に見える。

1, 3

大風で家が半壊する。何者かが釘を抜いていったらしい。交通事故があり、Tちゃんは見物に行く。

1,10

宴会。私の分の料理がない。気がつくと衣服が剥ぎ取られている。

1,19

無人の古本屋。上下二巻の、赤い表紙の山本健吉の小説を見つけて、天気の良い河川敷を散歩する。

2, 7

初老のフランス人男性が家の前で行き倒れていたので、近所のアメリカ人の家へ連れて行った。アメリカ人はケント・デリカットのようで、商売柄家の中はごちゃごちゃしている。この家の便所は二階の屋根の上にあり、空間が出鱈目に歪むので恐い。フランス人はチェスを始める。皆で舞踏を見に行く。

2, 8

ワープロをいじっていて、通信機能がついていることに気づく。
前の持主であった従兄が脚本を担当したアニメが画面に現れ、その中で主人公の少年が巨大化していた。彼になった私は、こうなってしまっては仕方がないと本の整理をし、出ていくところを妹に目撃された気もするのだ。国道6号の坂を乳母車のようなものが全速力で下ってきて、その勢いでZ寺の墓地に通じる細い参道を駆けのぼって行った。私ともう一人が後を追ったが乳母車は見当たらない。工夫が二人来て、マンホールの蓋を開けた。中に落ちたらしく、底の方から非常に興奮した声がするが、上がってこようとはしない。

2,10

脱出間際になって杉野兵曹長がいないことに気がついた。彼は直径2メートル程の金属盤の下敷になっていて人手では救出のしようがなかったが、人間大のウルトラセブンによって救出され、皆バス数台に分乗して小学校の校舎へと移動した。校舎の床は隙間なくパン屑が敷きつめられている。図書室で一列縦隊になった我々は、再び表のバスに移った。階段を降りる途中数名が脱落あるいは翻意し、その場に残った。脱落者の一人は私を見てひどく恐怖した。表に出ると夜の住宅街には人っ子一人おらず、バスもなかった。若い女性が現れたが私を見てやはり悲鳴を上げて逃げ去った。私は自分がどういう姿をしているのか解らないまま見知らぬ街に取り残された。

2,13

埴谷雄高の話を聞く。学校に忘れ物を取りに戻る。校内は蚊柱が充満している。

2,18

学校内の畳敷きの合宿所。N子とキスする。終電もなくなったのでともに夜道を歩き、忘れ物に気づいて一人で戻る。残っていた男と何事か話し込んで、そのまま彼女のところへ引き返そうとしたが、闇のなかで数百名以上の柔道部員が受け身の稽古をしており、側を通り抜けるのが怖い。

2,19

見たこともない伝統楽器を合奏する。インターネットの話題を出したためである。

2,21

豪華客船内での受賞式を観覧。トイレに立ったついでに廊下の美術品を見たが、作りかけのものも混入している。船はどんどん狭い路地に分けいっていき、不安になった我々は地上に飛び下りたが、バスになった船は我々をどこまでも追いかけてきた。山麓の民家の三階の屋根にまで追い詰められ、偶々手にしていたものを丸めて投げつけたが、それを手離したら逃げまわってきた意味がないのだ。

2,27

シャーレの白い液体に浸かった、目のない蛙。

3, 1

家中骨董品に満たされ、それらの大部分が破損している。また、リスト作成上の失策が明るみに出る。

3, 4

真夜中のスーパーに面接の行列が出来ている。岡崎に呼ばれて古い木造の寮に紛れこみ、NHK連続テレビ小説のような画面に巻き込まれて苛々する。野崎さんに乗られる。家の前で猫が轢死していた。

3,14

高校の同級生の女子三人と車で出かける。車中、サドの『悪徳の栄え』全二巻と『坂口安吾全集』全十八巻を読了する。薄暗いファストフード店に入ると、店番は中学生くらいの女の子一人しかいない。店主は殺害されている。女の子が犯人である。

3,15

テレビで折り紙の技法を紹介していた。祖母とその妹にやり方を聞かれたが、私もよく見ていなかったので、ホームズと私の共同の下宿を訪ねる。下宿はプレハブのような安っぽい二階建てである。ホームズは留守で小さな男の子と女の子がいるだけだったが、男の子は早速名探偵ぶりを発揮し、得意気にホームズの行方を突き止めた。私はすっかりワトソン役にされてしまったが別に腹も立たず、子供たちを利発で可愛いと思う。

3,17

トラックの助手席でゆでたまごを食う。一個百十円。林の中の廃墟を逃走する。見山は風呂場に飛び込んだが、風呂は三階分ぶち抜きの縦長の空間の底にあり、風呂自体の深さはどれほどのものか見当がつかない。皆で助け上げたが、上がってきたのを見ると桜井ではないかと思う。

4,12

夜、家の庭で数人の男がたむろしていて恐い。知らぬ振りで雨戸を閉めたが、男は雨戸の隙間から室内に滲み入って来た。タモリだ。共に食事をする。

4,14

雨天のため中止。三人一組に別れて、民家跡に分宿。

5,17

竹村健一の面接を受け、映画を見せられる。隣席の女と恋仲におちいる。駅で偶然再会する。面接は落ちたらしい。

5,28

Mちゃん。私だけは作業がうまく行かず、説教を食らうのだ。

6, 5

小学生である弟に導かれて、某大学の校舎に入る。文化祭の準備が進められているらしいが学生たちは皆明らかに左翼である。弟が何故こんな連中と知り合いなのか。

6, 8

予備校で世界史を教えている。最前列の生徒は非常に熱心で、何度も質問をぶつけて来るがその都度授業はストップするので、後ろの生徒が一人怒って退席してしまう。授業を終えて職員室に戻ろうとし、それがどこにあるのか分からないことに気がついた。地図や年表を抱えたまま広い校舎をさまよい、C子らとコンビニで合流して酒肴を買い込む。誰かの家で宴会でもやるらしい。

6,12

親族、学生入り乱れての祝宴。一段高く作られた檀の中央に祖母が座り、その両脇に老夫婦が座を占める。老夫婦の存在は私にだけは見えない。皆が入浴している隙に叔父に老夫婦の不在を確かめるが、叔父はいるつもりで振る舞わなければならないという。

6,24

家の中に一メートル近い巨大な蚊。

6,29

高いビルが見えた。わきに赤いクレーンが突き出ていて、そうだ、ビルというものはああやって出来上がった部分に乗せたクレーンを次第に足場ごと上げていきながら造るのだと思った。はっきりと目を覚まし、自分がいつの間にかビルの屋上にただ一つ置かれたベッドで眠っていたのに気がついた。K病院が見下ろせた。文句を言いに来た管理人に頭を下げ、這々の体でとりあえず布団だけ抱えてエレベーターに乗り込んだ。エレベーターは異常に狭い。立つことも出来ず座っても足も伸ばせぬ狭さだ。布団の塊の上に座りこんだ私は、こんな狭さでもしエレベーターが故障したら一体どうするのかと思ったがその途端にエレベーターが止まり恐慌状態に陥った。気がつくと居酒屋の建て込んだ繁華街をバジャマのままうろついていた。夜、家で神谷さんを匿い、ともに布団のなかに隠れたまま追跡者が迫って来るのを待っていた。

8,12

膨大な量の壊れたテレビばかりが山積みされた原野にいた。上空からヘリに発見され咄嗟にイトスギの陰に逃げ込んだが、ヘリはプロペラと本体とに分離しプロペラだけがこちらに迫って来たのでこれは以前何度も見たUFOもののヴァリエーションだと思ったが、周囲はブロック塀で囲まれていてそれ以上逃げようがない。ガレージと図書館を合わせたような古本屋にいたが、もう時間切れのようで中年女性の反応も冷淡であった。

8,22

弟や柳川一家など親族が家に集まっていてテレビに出ていた詩人の吉増剛造も居間にいたので話し込み、あなたの最近の詩は物語性が強くなって来ましたねなどという。話し続けたかったにもかかわらず食事の後片づけや風呂焚きなどで落ち着かず更に降り口のコンクリートの中に何某が埋め込まれていることが分かったのでこれを掘り出してほしいと祖母に言われて、苛々しながらノミとカナヅチを持ち出し弟と共にコンクリートを叩き壊し続けたが何も出てくる様子はない。

9, 3

無免許のまま車を運転していてその不安な浮遊感がたまらず、摘発を受けそうな予感のもとに適当な所で引き返して近所のバス停に戻ると知人の女性が立っていたので懐かしく感じ、話し込んでいるのだが話しながらもそのバス停と家との位置関係がどうしても思い出せず、気がつくと自分が今まで乗り回していた車はその速力や性能を保持したまま子供用の三輪車になっているので、道路を走っていても多少違和感が残り気恥ずかしい。布教所に行かねばならない朝、祖母に急かされていて、既に門前で待機しているタクシーに帰省中の弟とともに早く乗り込まなければならないのだが、気ばかり焦ってネクタイも結べず苛々しながら全てを徒に混乱させていくばかりだ。混乱のうちに月日が流れ過ぎていってしまった気がするのだがその間を誠実に待機し続けたタクシーはいつの頃からか居間に上がりこんでいるので、これを一体どうやって外に出せばよいのかと時の流れの量感に圧倒されて呆然としたが、応接間を通して何とか表に出し、ボロボロの服装のまま出発する。弟はトランクの中に入り込んでいるので目的地まで持つものかどうか少々心配になる。

9, 4

古い校舎。誰かが飛び下り自殺したらしく騒ぎになっている。不愉快さに耐えながら一番最後に現場を覗きに行ってみると死んだのは坂部さん他一名で横向きになって棺の中に入れられていた。奇麗な顔をしていたが横向きにされているのは右側の打撲傷がひどいためらしい。何故彼女が死ななければならないのか。

9, 5

ウィルヘルム・フルトヴェングラーに指揮法を教授される。

9, 7

係員に見咎められた。駅は既に破壊され、我々群衆はホームから飛び降りて線路の上を粛々と行進していた。白い外光の差し込んだロビーの休憩室には、病室にあるようなパイプ製のベッドが置かれていた。私は大きな窓から屋外に目を遣っていて、その自分の背中をも同時に眺めていた。もう、することもないのだよ。

9, 8

見晴らしの良い水田の中の道を、家まで歩いて帰ろうと思う。空はどす黒い。T字型の三叉路にさしかかり、直進した方が近いのだが、そこで出会った農村の少女と共に左折していくことにする。市街地に入った頃には空は深緑に曇って更に暗くなり、路面も壁面も一様に生物的なぬめりを帯びて湿っていた。人気はなく、見慣れぬ軟体生物が点在していて、しまった、これは以前見た夢と全く同じではないかと気がついた途端、巨きな眼をもつオレンジ色のナメクジのようなものと視線が合った。辺りはもう、そのような毒々しい生物だらけだ。かなりの大きさを持つ未知の環形動物、偏形動物、無脊椎のわけのわからぬものたちが街中に蠢いているのでそれらを避けるように斜めにガード下を抜けて行こうとすると、その壁面にもやはり頭の高さの辺り一列に巨大な巻貝のようなものが貼りついていて、細長い触手や偽足をさし延ばし震わせていた。怖けを振るい、迂回して他の道を行こうと思うが考えたらここがどこなのか分からない。少女もどこかへ消えてしまっていた。

9,10

雨の中、突然訪ねて来た小野村の車に乗せられて農家風の四阿に降り立ち、その外壁に感銘を受ける。何か殺伐とした雰囲気があって、私一人が閉店時刻をとうに過ぎた古本屋の片隅の床に勝手に横たわり、隠れ泊まっていた。表に人の気配がさす度に気が気でなく眠れたものではない。発見されたら何と釈明すればよいのか。翌朝帰宅してみると家の前にも古本のワゴンがあって、雨ざらしになって放置されていたので、そういうことなのかと納得した。

連れ立って歩いているうち、私一人がフェンスの破れ目に気をひかれてそこから構内に紛れ込んでいった。古びた薄暗い教室の中まで忍び込み、講義内容を盗聴していて教官に気づかれてしまった。逃げ延びて帰宅してみると裏の古机等のガラクタ一つ一つに手書きの値札が貼られている。祖母が古道具として売り出すのだという。仏檀もバラバラに解体されて、その部品一々に値札が貼られている。どれも百円単位のものばかりで千円を超える品は一つもない。

9,12

祖母の捜し物が見つからない。箪笥の引き出しをさらっていて、かつてそれを自分が勝手に処分していたことに気がついた。引き出しからは他にも色々と懐かしいものが出てくるのですっかり気を取られてしまったが、ハッと気づいて一瞬で遥か遠くの公園に戻る。私が連れていた二組の双子はどちらも既に車に拾われてしまっていてベンチにはその残像しか残っておらず、見知らぬ女が私の鞄を開いて水溜りの中に叩きつけていた。慌てて止めさせると女は、だって、これ誰のですかって何回呼んでも応えがないし、さっき喧嘩別れした彼氏にももっと積極的になれって言われてたから、と訳の分からぬことを言う。自分の行為に誰も名乗り出て来なかった苛立たしさを積極的に表現していたということか。女は何となく石井さんに似ている。

9,18

気がつくと自室が物だらけになっていた。大量の木製の書棚と、それを埋め尽くすマンガを中心とした古本、皿、置物、その他のガラクタ全てを収蔵した部屋は工場のような広さに拡がっていて、どこからともなく現れた大勢の手伝いの人たちが次々と荷物を運びだし整理を始めた。整理なのか引越なのかその辺りの区別がこちらにも曖昧で、大勢の人たちにこちらの意向はほとんど行き届かず、必要なものまでが次々と無造作に運び出されて行く。やがて物が減った部屋は通常の広さに戻り、細かいゴミが散らばっているだけになっていた。

物置のような食堂で便所に入った。便所はかなりの広さの板敷きだが便器が無造作に掘られているだけで個室を隔てる壁も男女の区別も一切なく、排泄も数名の男女に見守られながら行ったが別に恥ずかしくもない。その中に粗野な感じの美青年がいてこちらに話しかけてきた。青年に言い難い魅力を感じてバスに同乗すると、青年は猥談を連発して性風俗の業種と店名を羅列し始める。

9,25

柳川の叔父は、死病にとり憑かれる。

11,25

Mちゃん。

11,30

某新興宗教団体の査察のため、ある性風俗の店に潜入する。店員は女性が二人、二人とも裸体で胸まで達する巨大な模造ペニスを装着している。付近の反対住民の抗議デモが押し寄せ、それに巻き込まれかけたが店員たちが私を逃がしてくれる。木造の壮大な迷宮大学をさまよっていた。学生は白人が多い。休み時間、廊下の椅子に座っていた髭だらけの巨漢に話を聞き、栗城君に8ミリを借りて再び彷徨を続けた。外に出ると大学は塔に見え、周りは平面の砂地ですべてが夕日に染まっていた。

12,19

古本。女性化した酒井に言い寄られる。

12,20

友人と山道を歩く。

12,21

スケート競走。




1997年



1,20

裸体の男性とのキス、性交。人々は内圧で胸を破られ夥しい臓器の大群となって広大な青空へと噴出する。事件は一時的な解決をみた。和服を着け、庭園の亭での座談。夜の操縦席での、無数の細かいものたちとの戦い。暗い家路。見知らぬ少女。隣家が消失していた。疑似世界に陥れられたのだ。逃走。戦いは終わらず、少女は喰い尽くされる。弟はブダペストに赴任していた。津川雅彦と同室したホテルで電話を受ける。朋ちゃんは誰のものとも知れない子を孕み、査問を待っていた。

1,30

眼下に松林、旧家。海。先祖に由来する意味不明の漢詩を脊戸川、栗城らに吟じてもらう。

1,31

応接間の窓から猫が飛び込んでくる。生まれてはならない姉弟が生まれる。

5,27

柳川の叔父は著作を多数発表しテレビに出ている。弟の部屋に多くのマンガ。私は風呂に入らない。母は体調を崩す。弟が医師に電話するが幾つもある薬のうちどれをのませればよいのか分からない。弟は母を叔母と言っている。二階のベランダから祖母が立ち話をしているのが見える。その足元を高速で鰐が通り過ぎて行った。鰐ではなくオオトカゲだ。警官に怒鳴り後を追わせる。雨の中、閉館中の自称《水戸芸術館》にいた。大きな古本屋が近所に二軒開店した。一軒は家の正面。その中を丹念に見て歩く。建物の中はがらんとして荒廃した印象。後輩らしい女の子は探し物を見つけられずにいた。

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