『実存戦隊ダーザイン』主題歌


ダーザイン  戦え僕らの実存戦隊ダーザイン!


大戦迫り、神は亡く
マロニエの根に風が吹く
フッサール司令の命令だ
戦隊出動アンガージュマン!
行くぞ合体アウフヘーベン!
巨大ロボット「ジンテーゼ」だ
戦え僕らの実存戦隊ダーザイン!

敵は道具的存在者
弁証砲をぶッ放せ
ナチの手先のハイデガー
悪い世人(ダス・マン)倒すため
力を合わせて企投せよ
ダーザインキック!ダーザインチョップ!
戦え僕らの実存戦隊ダーザイン!

(ナレーション)
「死への不安を自覚し、
 決断をもってそれを自らに引き受けるとき
 彼らは本来的自己を開示し
 実存戦隊ダーザインとなるのだ!」

主体と自立を極めれば
世界を変革できるはず
シジフォスの神話恐れるな
君も僕らも現存在
団結乱す異分子は
月に代わって総括よ!
戦え僕らの実存戦隊ダーザイン!
戦え僕らの実存戦隊ダーザイン!

「君も後楽園ゆうえんちで僕と対自!」





 以下T.O.宛て私信より、ある工場で起きた「ダーザイン事件」についての記述の抜粋


 ……ところで「ダーザイン」のポスターを中学の同級生Oの勤め先、××電×・××工場の便所の個室に貼っておいてもらったという話は前の手紙に書いたと思うのだが、社員にインテリが多いので2〜3人は分かる者がいるだろうという程度のつもりでやってみたところが、予想を遥かに上回る過激な反応を生み出す結果になってしまった。
 何が起きたかというと、まず貼った数時間後にポスターが何者かに持ち去られた。それもただ引きはがして捨てたなどということではなく、ポスターを傷つけぬよう細心の注意を払って四隅のテープをはがした跡があり、テープだけが奇麗に残った個室の壁には「ダーザイン=オーレンジャー」という落書きが残されていた。
 休憩室に入ると、四五十代社員が密集し、何事か熱心に議論していた。休憩室の四つのテーブルのうち三つが一か所に寄せられ、その周りに室内の椅子全てが集められて、それでも足りずに十重二十重に周りを囲んで立つ社員たちの真ん中にあの「ダーザイン」ポスターが広げられていたという。
 皆笑い、興奮し、詞の内容に関する解釈・鑑賞と、犯人探しが進められていった。「合体ということはこの五人が合体するのか」「いやアウフヘーベンしてジンテーゼになるのだから五人というのはおかしい。普通テーゼとアンチテーゼの二つなのだから他にロボットのようなものがあるのではないか」「ハイデガーが敵役になっているのは」「ハイデガーはマールブルク大学から戻ってフライブルク大学の総長になった後、ユダヤ人だという理由で師のフッサールを追放しているからつじつまは合っているわけだ」などとかなりの正確さをもって解釈が進められていったが、犯人の方は見つかるわけもなく「案外これを作ったのは学生か、卒業したばかりの若い人間ではないか」との正鵠を射た意見が「いや、若い者がここまで知っているはずがないし、第一うちの若い社員にこんな話の分かる奴はいない」と言下に否定されてから「総務課の何某では」「いや経理課の何某がこの手の話に詳しかった」等と徒に容疑者ばかりが増やされていったが、ポスターを突きつけられた者は皆爆笑し、容疑を否定した。やがて四五十代の社員たちは「そう言えばあのヘルメットどこへ行ったかな」「当時の同志たちに寄せ書きしてもらったマスクがあったはずだが」などと図らずも皆、学生運動の経験者であることが暴露されるにいたって、今回、自身は哲学思想関係の知識が皆無でありながら私の遣いとして内通者をつとめただけの同級生Oは唖然とした。
その間にも、万一実名であった場合、作詞作曲者が受けかねない諸々の迷惑を考慮して、その部分のみ塗り潰したポスターが総務課のコピー機で百枚ほどもコピーされ、工場の広い敷地内に存在する全ての便所の個室に貼られ、さらに、「ご自由にお持ち下さい」と書かれたパンフレットの棚に社員割引のご案内などと一緒に並べられ、バンド活動をしている者は、詞が気にいったので曲を付けて次の社員旅行のアトラクションで演奏しようと表明し、またある者は、マッキントッシュでイメージリーディングして色指定し、本格的なポスターを制作しようともくろみ、訳のわからぬままに、休憩室の椅子まで占拠されて蚊帳の外に締め出された二十代の社員たちを尻目に、中年社員たちは連日よるとさわると議論と追想に花を咲かせ、異常な盛り上がりをこの一週間続けてきたということである。
 私は先週、電話でこの報告を受けて爆笑し、早速内通者Oに日誌形式でレポートを書かせることにした。その後騒ぎがどのように拡大し、あるいは収束していったか詳しいことが分かり次第追って知らせることにする。
(中略)いずれにせよ、××電×・××工場は当面目を離すわけにいかぬ熱い日々が続くものと思われる。こうご期待。

                         1995,5,31

                            関 悦史
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